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最高裁判所第三小法廷 昭和33年(オ)208号 判決 1961年10月10日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人羽田野忠文、同今福朝次郎、同佐藤安哉の上告理由第一点ないし第三点について。

被上告人は原審における昭和三二年五月一五日午前一〇時の(最終)口頭弁論期日において、その主張として、本件賃貸借契約は、その締結の経緯および内容から明らかなように、その期間を三年間に限つた一時使用のためのもので、借家法の適用がない。かりにしからずとするも、被上告人は自己使用の必要上、適法な更新拒絶をしているので、右期間満了とともに終了している旨陳述していることは、右期日の口頭弁論調書上明らかである。したがつて、原審が、被上告人の右主張を容れて、本件賃貸借契約が一時使用のためのものであると判断している以上、さらに所論のように更新拒絶ないしその正当事由の点について判断する必要がないこともいうまでもない。されば、原判決には所論のような違法はなく、論旨はいずれも理由がない。

同第四点、第五点、第六点(一)、(二)および第七点について。

本件賃貸借契約をもつて、借家法八条にいわゆる一時使用のための賃貸借とした原審の判断は、原判決挙示の全証拠によれば肯認しうる。原判決には、所論(第六点(一))のような欠点があるものとはいいがたいし、原判決は、所論(第七点(一))上告人の諒解の事実を、所論のように三年の期間内でも賃借家屋を明け渡すことあるベき旨約したとの事実からだけではなく、挙示のその他の証拠を綜合して認定(ことに、原審証人田島シゲの証言中には、判旨認定事実に直接符合する供述がある。)したものであることは、判文上明瞭である。また、所論(第七点(二))指摘の低賃料の事実を、一時使用のための賃貸借であることの認定の一資料とした原判決の判断も、本件の場合には首肯しうるところであり、これに反する所論は独自の見解を述ベるにすぎない。以上のとおりであるから、所論は、ひつきよう原審が適法にした証拠の取捨判断ないし事実認定を非難するにすぎないことに帰し、いずれも採用しえない。

同第六点(三)について。

借家法八条にいわゆる一時使用のための賃貸借といえるためには必ずしもその期間の長短だけを標準として決せられるべきものではなく、賃貸借の目的、動機、その他諸般の事情から、該賃貸借契約を短期間内に限り存続させる趣旨のものであることが、客観的に判断される場合であればよいのであつて、その期間が一年未満の場合でなければならないものではない。所論は、これに反する独自の見解を前提とするもので、採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 垂木克己 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一)

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